「俺の一番最初の写真集は、スケッチブックにプリントを貼り込んで自分で作った写真集だね。電通時代に作り始めた、手作りの写真集。銀座に月光荘という画材屋があってさ、そこのオヤジと仲良くなって、このスケッチブックにしようってね。B4の大きさで、日にちと、撮ったカメラとレンズも書いてたね。ミノルタSRとかね。俺、やっていることはこの頃からずっと変わらないんだよなぁ。」
—— 荒木経惟
アラーキーこと荒木経惟さんは、1940年東京都生まれの写真家です。千葉大学工学部写真印刷工学科写真映画専攻を卒業後、63年から72年まで株式会社電通に勤務。デビュー作《さっちん》(1964)で、第1回太陽賞を受賞しました。
荒木さんが電通を退社してフリーになるまでの64年から71年にかけて、月光荘のスケッチブックに個人的な習作として撮り溜め自らレイアウトしたスクラップブック全26冊が、倉庫から突然発見されました。
作品で言えば『センチメンタルな旅』以前ということになります。
天才・アラーキーの生成を紐解く上で欠けていたピースで、ピカソで言うところの「青の時代」とも言える貴重な時間の記録は『月光写真』と名付けられ、一冊の写真集となって発売されました。そこにはその後の天才の写真人生を彩っていくモチーフの多くが出揃っています。
これまでほとんど発表されることのなかった荒木さんの「原点」に、月光荘がそっと寄り添っていました。